
韓国バラエティ番組の歩き方:初心者のためのフォーマット入門
韓国バラエティとの出会いは、たいてい事故のようなものです。サムネイルに推しが映っていたからクリップを一本再生しただけなのに、40分後にはいい大人たちがショッピングモールを全力疾走し、背中の名札を剥がし合うのを眺めている。しかも3秒おきに漫画みたいな効果音が鳴っている。出演者の名前もわからない。ルールもさっぱりわからない。それでも、まだ観ている。
これを「韓国版リアリティTV」と呼んでしまうと、文法のあまりの違いを取りこぼします。ここでは、このフォーマットの何が特別なのか、どんなジャンルがあるのか、そしてどこから手をつければいいのかを整理していきます。
韓国バラエティは何が違うのか
画面そのものがボケている
初心者が最初に面食らうのは、画面の中で起きていることの多さです。韓国バラエティの編集者にとって、フレームはキャンバスです。十数種類のフォントと色で流れるテロップ、出演者の頭の上に貼りつく漫画的なスタンプ、気まずい間を的確に埋める効果音、そして一瞬の表情をストップモーションで拡大し、笑いどころになるまで繰り返すリプレイ。
この자막(チャマク、テロップ)は、発言の書き起こしではありません。実況であり、ツッコミです。編集者は画面に一度も映らないもう一人の出演者のような存在で、皮肉な合いの手を入れたり、「今この人は嘘をついています」と静かに指摘したりします。欧米のリアリティTVはふつう編集の存在を隠し、カメラが中立な観察者であるふりをします。韓国バラエティはその逆です。編集は騒がしく、主張が強く、しばしばその回でいちばん笑える部分になります。
字幕付きのクリップが海外の視聴者にここまで刺さるのも、これが理由です。笑いの多くが視覚とリズムで成立しているので、韓国語がわからないうちから驚くほど伝わってきます。
固定メンバーと、積み上がった関係性
欧米の競争型リアリティは、出演者を入れ替えながら対立を作り出します。韓国バラエティが頼るのは、何年も毎週同じ顔ぶれで出続ける固定メンバーです。これが番組の中身そのものを変えます。誰も脱落しないので、緊張感の正体は「今週帰るのは誰か」ではありません。もっと社会的なものです。今日いじられるのは誰か、連敗中なのは誰か、強がっているのがバレているのは誰か。
年月をかけて、これは作り物では再現できないものを生みます。お約束のネタが積み重なる。あだ名が定着する。出演者同士が交わした一瞬の視線だけで笑いが起きるのは、視聴者が6年前の回を覚えているからです。長く観ている人がこれらの番組を「番組」というより「毎週の集まり」のように語るのは、そのためです。
そのすべてを取りまとめるのがMCです。韓国バラエティは、混沌を舵取りし、緊張しているゲストを守り、いつ他人に見せ場を譲るべきかを心得た司会者によって成立しています。ユ・ジェソク、カン・ホドン、シン・ドンヨプといった名前には数十年分のその技術が詰まっていて、彼らが出ているというだけで、番組の空気は始まる前から伝わってきます。
何年も終わらない番組たち
韓国バラエティの寿命は、シーズン数ではなく年数で数えます。看板番組のいくつかは、同じ核を保ったまま10年をゆうに超えて放送され、その間にメンバーを静かに入れ替えてきました。リアリティ・バラエティの原型を作った実験作**『無限に挑戦』**(MBC、2005〜2018年)は、韓国のお笑いの一時代を丸ごと形づくり、放送終了後の今でも引用され続けています。
この長さが、初心者を妙な形で怯ませます。第1話から観る必要はありません。誰もそんなことはしていません。1話ごとに完結する週単位のユニットですし、そもそもクリップ文化が発達しているのは、どこからでも飛び込めるようにするためです。
ジャンル別・どこから始めるか
ゲームバラエティ
王道のフォーマットです。出演者をどこかの場所に放り込み、不条理なルールを与えて競わせる。定番の入口が**『ランニングマン』**(SBS)で、2010年から続いています。看板ゲームは、互いを追いかけて背中の名札を剥がし合うというもの。そこにテーマ別のミッション、豪華ゲスト、手の込んだロケが乗ります。まずは知っている顔がゲストで出ている回から観てください。10分もあればルールは勝手に飲み込めます。
近い親戚が、旅とゲームを組み合わせた番組です。賭けられているのは、誰が外で寝るか、誰が朝ごはんにありつけるか。『1泊2日』(KBS)は복불복(ポクブルボク、「運か不運か」)と呼ばれる罰ゲームを軸にその型を作り上げ、長らく日曜夜の定番であり続けています。
トークショー
韓国のトークショーは、司会者がデスクの向こうに座っている、という形をほとんど取りません。『知ってるお兄さん』(JTBC)の舞台は中学校の教室で、出演者は学生服姿。ゲストは「転校生」としてやってきて自己紹介をし、容赦なくいじり倒されます。Kポップファンに人気なのは、アイドルが「よそ行きのプロモーションモード」から一瞬で引きずり出されるからです。
対極にあるのが**『ユ・クイズ ON THE BLOCK』**(tvN)で、こちらは騒がしさよりも温かさの番組です。街ゆく一般の人に声をかけて話を聞き、クイズを一問出す、という街頭インタビュー番組として始まり、やがて大スターから科学者、消防士までを迎えるテーマ回へと育っていきました。にぎやかなバラエティに疲れてしまう人には、いちばん優しい入口です。
観察バラエティ
実際の日常を撮影し、それをスタジオのパネラーが観てリアクションする、というジャンルです。二度手間に聞こえますが、そのスタジオトークこそが番組の本体だと気づくと納得できます。『私は一人で暮らす』(MBC)は独り暮らしの芸能人の何でもない一日を追いかけます。買い出しをして、掃除をして、料理を失敗する。2013年から続いていて、現代の韓国のアパート暮らしを覗く窓としては、あらゆるテレビ番組の中でもおそらく最良です。『全知的おせっかい視点』(MBC)は同じレンズを芸能人とそのマネージャーに向けたもので、芸能業界の日々の回り方を知るのにうってつけです。
サバイバルとオーディション
韓国のオーディション産業は巨大で、その中で最も大きな影響を残したのがMnetの**『PRODUCE 101』シリーズです。視聴者が投票して期間限定のアイドルグループを組む、という仕組みでした。I.O.IやWanna One**を世に送り出し、2016年には「Pick Me」を逃れられない曲にし、ファン投票をデビューの手段として当たり前のものにしました。同時に、教訓でもあります。投票操作のスキャンダルが刑事裁判での有罪判決にまで至り、この種の番組が透明性をどう扱うかを根本から変えました。
それでもジャンル自体は枝分かれを続けています。『Sing Again』(JTBC)はより温かい変奏で、埋もれてしまった歌手たちが名前ではなく番号で匿名のまま競います。これによってドラマの焦点が、人気から歌そのものへと移ります。
恋愛リアリティ
韓国のコンテンツを一度も観たことがない友人に、いちばん勧めやすいジャンルです。『脱出おひとり島』(Single's Inferno、Netflix)は独身の男女を何もない島に放り出し、カップルが成立したらその二人だけを快適なホテルへ送り出します。進行はスタジオのパネラーが実況で添えていきます。『EXchange』(『Transit Love』とも)の設定はもっと鋭くて、かつて付き合っていた男女が一つの家で共同生活を始めます。視聴者はシーズンを通して、誰と誰が元恋人なのかを推理し続けることになります。
どちらも欧米の恋愛番組と比べると、驚くほど抑制が効いています。怒鳴り合いは少なく、いたたまれない沈黙が多く、小さな仕草から感情を読み取らせる場面が延々と続きます。
グルメと旅
いわば低速車線で、この領域を形づくったのはプロデューサーのナ・ヨンソク、通称ナPDです。『三食ごはん』(tvN)は芸能人を田舎の一軒家に送り込み、自分で育てるか、獲るか、かき集めるかしたものだけで一日三食を作らせます。ほとんど何も起こりません。それが狙いです。
『新西遊記』(tvN)は同じプロデューサーによる正反対の極です。お笑い芸人とアイドルが、食事を賭けて容赦のないクイズや記憶ゲームに挑みます。地上波ではなくウェブ発でスタートしたという点でも、バラエティがこのあと向かう先を先取りしていました。
Kポップファンにとってバラエティが重要な理由
ステージが見せてくれるのはアイドルのパフォーマンスです。バラエティが見せてくれるのは、その人間です。
韓国語には、そこで問われる才能を指す言葉があります。예능감(イェヌンガム)、ざっくり訳せば「バラエティ勘」です。場の空気を読み、笑いを取り、いじられてもきれいに受け止め、無表情ではなく良いリアクションを返す力のこと。イェヌンガムのあるアイドルは引っ張りだこになり、グループの活動サイクルより長いキャリアを築くことも珍しくありません。
ファンにとって、バラエティは個性が分かれていく場所です。物静かに見えていたメンバーが、実はとんでもなく毒舌で面白い。ビジュアル担当がどのゲームでもまるでダメで、それでも全力で楽しんでいる。ライトな音楽リスナーが「特定の誰か」のファンになるのは、たいていこの瞬間です。事務所が新人グループを早い段階でバラエティに送り込むのも、大きくはこれが理由です。
アイドル特化型のバラエティは、それ自体が一つのサブジャンルです。**『週刊アイドル』**はアイドルのためのコーナーを次々に発明しました。ランダムプレイダンスや2倍速ダンスへの挑戦は、今もクリップが延々と切り出され続けています。最近では自前のウェブバラエティをYouTubeで制作するグループも多く、知ったばかりのグループで誰が誰なのかを覚えるには、たいていこれがいちばんの近道です。
どこで観られるか
何が観られるかは住んでいる地域によりますし、配信権も時期によって動きます。以下は保証ではなく、あくまで出発点として読んでください。
- Netflixは自社の韓国オリジナル作品に加え、地上波番組のライセンス配信を地域ごとに入れ替えながら揃えています。
- VikiとKocowaは韓国コンテンツ専門で、コミュニティ翻訳またはプロによる字幕がつきます。地上波バラエティを最も早く配信することが多いのもここです。
- YouTubeが実質的なメインの入口です。韓国の放送局が公式チャンネルを運営し、字幕付きのハイライト、コーナー丸ごと、過去回のまとめ映像を投稿していて、その多くが世界中で無料で観られます。
自分の国の配信サービスに番組がなくても、公式クリップならたいてい見つかります。
実際の始め方
- フル尺ではなく、クリップから始める。 公式の10分カットを一本観れば、そのリズムが自分に合うかどうかはわかります。フル尺は80〜100分あることも珍しくありません。
- 知っているゲストが出ている回を選ぶ。 見知った顔が一人いるだけで、出演者同士の込み入った関係がわからなくても最後まで持ちます。
- 字幕が二層あると覚悟する。 会話の翻訳に加えて画面上のテロップの翻訳も同時に流れるので、最初は情報量に圧倒されます。すぐ慣れます。
- 時系列を追いかけない。 面白そうなものから観てください。文脈は勝手に積み上がっていきます。
- 1つの番組につき3話は観る。 バラエティの化学反応は積み重ねで生まれる設計になっていて、一発目で完全にハマることはまずありません。
本当のテスト
韓国バラエティにハマると何が起きるかというと、自分でも気づかないうちに膨大な量の文化を吸収してしまいます。年齢の上下関係が会話をどう形づくるのか、平日の夜に人々が実際に何を食べているのか、どのアイドルがどんな評判を背負っているのか。それらは正面からではなく、背中の紙を剥がし合うゲームに包まれて、横から入ってきます。
では、どれだけ身についているのでしょうか。下のクイズは、そこそこ正直な棚卸しになります。ひとつは韓国文化全般を扱うもので、バラエティが1話ずつ流し込んでくる日常の知識が問われます。残りの二つは、アイドルを一目で言い当てられるかを試すもの。まさに、観ている時間が静かに鍛えてくれるスキルです。よく観ている人ほど、片方では自分の予想を上回り、もう片方では下回ります。